うつ病、気分障害とは?


 気分障害とは、文字通り気分が沈んだり、「ハイ」になったりする病気です。以前は感情障害と呼ばれていましたが、泣いたり笑ったりする「感情」の病気というよりも、もっと長く続く身体全体の調子の病気という意味で、気分障害と呼ぶようになりました。

気分障害には、大きく分けて2つの病気があります。1つはうつ病、もう1つが双極性障害(躁うつ病)です。

 うつ病は、ストレスにさらされれば誰でもなる可 能性がある、という意味で、よく「心の風邪ひきのようなもの」と言われます。実際は、風邪ひきよりはもう少し重い病気と考えた方が良いでしょう。軽くてイ ンフルエンザ、重ければ肺炎くらいのイメージです。放置すれば命にかかわることもありますが、きちんと治療すればほとんどの場合すっかり良くなります。



悲しいことがあったり、大きな失敗をしたときなどは、誰でも食欲がなくなったり眠れなくなったりしますが、うつ病はこれがひどくなって、そのまま治らなくなってしまった状態です。

どの位ひどければ病気と呼ぶのか、一概には言えませんが、「1日中続き、どんなにいいことがあっても改善しないような嫌な気分(抑うつ気分)」または「それまで興味のもてたどんなことにも興味がなくなった状態(興味喪失)」のうちの少なくともどちらかがあって、5つ以上の症状が2週間以上続いた時に、うつ病と診断することになっています。

うつ病の主たる原因はストレスです。ストレスにさらさ れると、これに立ち向かうホルモン(副腎皮質ホルモン)が分泌されますが、普通は「フィードバック機構」が働いて次第にストレス反応が止まります。うつ病 になるとこれが止まらなくなってしまうのです。また、うつ病になると、脳内の神経伝達物質であるセロトニンなどが不足すると考えられています。強い持続的 なストレスにさらされたら、ほとんどの人がうつ病になりうると考えられますが、ストレスに対する弱さには個人差もあります。ストレスに対する弱さは、生ま れ育った環境などによって決まるようです。幼い頃に両親をなくすといった体験をすると、セロトニン神経の発達が悪くなり、うつ病になりやすくなります。

うつ病になると、一日中嫌な気分が続き、朝起き た時が一番ひどく、どんなに好きなことをしても全く気が晴れません(抑うつ気分)。食欲がなくなり、好きな食べものを食べてもおいしいと思えず、まるで砂 をかんでいるような感じで、食がすすまないので体重がどんどんやせていきます。夜は寝付きが悪い上に、夜中に何度も目がさめ、朝は暗いうちから目が覚め、 眠れないままにふとんの中でもんもんと過ごします。動作や頭の働きも、いつもよりゆっくりになってしまいます(制止)。いつもなら決断できることが、迷っ てしまってなかなか決められません。本を読もうとしても、同じ行を何度読んでもいつものようにすらすらと頭に入りません。それどころか、仕事も、家事も、 趣味さえも、とにかく何かをしようという意欲はまったくわいてきません。いつも楽しみにしていテレビや、毎朝読んでいた新聞にも興味がわかず、とにかくや り場のない苦しみに一日中苦しんでしまいます。何をしていても気持ちが落着かないので、ため息をつきながら、立ったり、座ったり、うろうろしたりと落着か なくなることもあります(焦燥)。何を考えても悪いほうにしか考えられず、自分は今まで何の役にも立ったことがないだめな人間だ、としか思えません(微少 念慮)。これが高じると、自分は生きる価値のない人間だとしか思えず、死にたくなってしまいます(希死念慮)。

 こうした症状のうち、23の症状が45日続く、ということは、肉親の死などの強いストレスにさらされた時にはよくあることですが、このうち5つ以上が2週間以上というと、そうそうあることではないとわかっていただけるでしょう。

 内科で異常ないと言われたが、やはり具合が悪い 場合は、うつ病を考える必要があります。周囲の人が特に心配した方がよいのは、重症のうつ状態で本人が病気という認識が持てず、どんどん悪くなっている 時、うつ病として治療を受けていたが具合が悪くて病院に行けない時、食事ができず栄養不良や脱水状態になりかけている時、死にたいと訴えている時などで す。
 うつ病、および双極性障害のうつ状態の治療は、患者さんの苦しみを改善し、できる限り早く症状をとることに加え、自殺予防が何より大切です。うつ病で自殺して亡くなる人は、日本でおそらく年間1万人以上いると思われ、交通事故の死亡者より多いと考えられます。自殺予防の第1歩は、希死念慮の有無とその強さを把握することです。希死念慮があるとわかったら、自殺は決してしない、と約束してもらいます。自殺しないと約束できない人は重症ですから、入院の必要があります。入院しても安全が確保できない場合は、「修正電気けいれん療法(mECT)」という、自殺念慮に対して即効性のある治療法もあります。




 うつ病の人には、これが病気であり、休養を 取って服薬すれば必ず治ること、治るまで重大な決定をしないこと、治るまでには一進一退があることを説明します。うつ状態にある人は、いくら頑張ろうとし ても気力がついてこないため、自信をなくしています。周囲は激励したりせず、やさしく支えることが大切です。 ま た、うつ病の患者さんとかかわる時は、患者さんが元来しっかりした人であったことを忘れてはいけません。うつ病の患者さんは、いかにも自信がなさそうに見 え、自分は何もできない人間だと強く訴えますが、実際は能力もあり、人に信頼され、きちんと仕事をしてきた人だ、ということを忘れずに接するようにしない と、患者さんも治る目標を見失ってしまいます。
 うつ病の患者さんに絶対してはならないのが、 「気の持ちようなのだから、薬にばかり頼っていないで自分で頑張って何とかしなさい」といった励まし方です。精神科にかかることを名誉と思う人はいません し、薬をのみたい人もいません。それを我慢して薬を飲んでいるのに、周囲の人にこのように言われるほどつらいことはないのです。



 
うつ病の治療には抗うつ薬を使いますが、これは効き目が出るのに12週間かかり、副作用(口の渇き、尿が出にくくなる、目がかすむなど)が強いという特徴があり、使い方の難しい薬です。しかし、その強い副作用でも、うつ病を経験した人に聞くと、「うつ病の途方もない苦しみよりはずっとましだ」と言います。


 抗うつ薬が効かないからといって、うつ病でないとは言えないし、簡単に治療をあきらめては行けません。最終的にはmECTを使えば、ほとんどすべての患者さんが治ります。難治性のうつ病に見える人は、ほとんどの場合、治療が不十分なだけなのです。
こういった症状に自分が当てはまると感じた場合、もしくは当てはまりそうな方が周辺にいた場合は心療内科や精神科の受診を強くお勧めします。普通の病気と同じで、早めの対応が早い回復をもたらすことになります。

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